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東京地方裁判所 平成元年(む)72号 決定

主文

本件準抗告を棄却する。

理由

一  本件準抗告の申立の趣旨及び理由は、申立人代理人作成の準抗告申立書記載のとおりであるから、ここにこれを引用する。

二  一件記録及び当裁判所の事実取調べの結果によれば、

1  渋谷簡易裁判所裁判官は、昭和六三年一〇月七日、司法警察員の請求により、被疑者氏名不詳、被疑事件(罪名)火炎びんの使用等の処罰に関する法律違反(同法二条)、建造物等以外放火被疑事件について、東京都世田谷区〈住所省略〉○○マンション三一一号室甲野一郎の居室において、革命的共産主義者同盟全国委員会(革共同前進派=中核派)および同派傘下の各団体等の組織上の主義・主張・方針およびこれらをあおる機関紙・誌・ビラ類の文書および原稿・原版・録音・録画テープ並びに写真・メモ類(以下省略)を差押えることを許可する旨の捜索差押許可状を発したこと

2  本件被疑事件は、いわゆる中核派が成田空港の二期工事に対する反対闘争の一環としてなした組織的、計画的かつ密行的な犯行であると認められ、右令状発布の時点において被疑者は未だ具体的に特定されるにも至っていなかったこと及び甲野一郎は、中核派に所属し、右犯行前から令状発布に至るまでの間相当活発な活動を行っていた者であること

3  司法警察員は、右捜索差押許可状により、昭和六三年一〇月一九日、東京都世田谷区〈住所省略〉○○マンション三一一号室において、捜索を行い、パンフ(「土地収用法による農地強奪に反対しよう」と題するもの)一部及び封筒(機関紙「前進」第一三八一号在中のもの)一通を差押え、右捜索差押の際、写真撮影を行ったことの各事実を認めることができる。

三  右事実並びに一件記録及び当裁判所の事実取調べの結果に基づき申立人の主張について以下検討する。

1  申立人は、本件捜索差押の場所とされている東京都世田谷区〈住所省略〉○○マンション三一一号室は甲野一郎の居室ではなく、同所を捜索差押の場所とする令状の発布及びこれによる捜索差押処分は違法である旨主張する。

前記のとおりの本件犯行の特殊性並びに右令状の発布及び執行段階におけるその解明の程度等に鑑みると、犯人の特定、犯行の具体的態様、共謀の内容及びその成立過程等を明らかにするためには、前記のように中核派の一員として活発に活動を行っていた甲野一郎の住居等について捜索を行い証拠の発見収集を行う必要があるものと認められるところ、右捜索差押の場所には、本件申立人及び申立人と甲野一郎との間の長女が居住し、住民票上も甲野一郎の住所は別に定められていることが明らかであるが、申立人と甲野一郎とは婚姻関係にあり、甲野一郎も同所に出入りしていることなどが認められるのであるから、本件捜索差押の場所をその居室と認定して本件捜索差押許可状を発布した渋谷簡易裁判所裁判官の前記裁判及びこれに基づき同所において行われた本件処分は正当であって、この点につき違法とすべきところはない。

2  次に、本件差押物件は、いずれも本件捜索差押許可状記載の差押えるべき物の第一号に該当する物であると認められるところ、これらの証拠物は中核派の成田空港二期工事に関する主張及び反対闘争の状況等を明らかにして本件犯行の動機及び共謀の内容ないしその成立の過程等を立証するうえで重要な関連性を有するものと思料され、令状に基づきこれらを押収した処分にも何らの違法は認められない。

3  また、捜索差押の際に、捜査機関が、証拠物の証拠価値を保存するために証拠物をその発見された場所、発見された状態において写真撮影することや、捜索差押手続の適法性を担保するためその執行状況を写真撮影することは捜索差押に付随するものとして許されるものと解すべきであって、本件における写真撮影についても、特段これを違法視すべき点はない。

4  さらに、本件処分の執行方法にかかる申立人のその余の主張についてみても、まず、令状の呈示が不十分であった旨主張する点は、本件捜索処分に着手するに際し、立会人たる申立人に対して適式に本件捜索差押許可状が呈示された事実が認められるから、理由のないことが明らかというべく、また、本件処分の際司法警察員が申立人の電話の架電を妨げるなどした違法があったという点についてみても、本件捜索の執行中(本件捜索差押処分は昭和六三年一〇月一九日午後六時二五分ころから同日午後七時一五分ころまで行われた。)、司法警察員が申立人に対し電話の架電を控えるよう求め、申立人も若干の応酬のすえ、用件等は明らかにしないまま、結局処分執行中に架電することを断念した事実等のあったことが認められるところ(なお、この点につき、司法警察員に脅迫的言動があったとの申立人主張は採用しない。)、司法警察員のかかる措置が本件の情況にも照らし全面的に是認されるものであったかはともかく、少なくとも、捜索に付随してとられ本件押収物件の発見等とも特段の関連のない司法警察員のかかる措置をもって、本件押収物件にかかる本件の具体的な差押処分をも違法ならしめるものにあたるとする趣旨に帰する申立人の前記主張は失当であるというほかはない。

その他本件差押処分には、その執行の手続を含め、違法と目すべき点のあったことを窺わせる事情は認められない。

四  以上のとおり本件差押処分には違法な点はなく、本件準抗告は理由がない。

よって、刑事訴訟法四三二条、四二六条一項により、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 竹崎博允 裁判官 木口信之 裁判官 手塚 明)

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